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かっとび一斗と風飛び一斗が好き

【かっとび一斗】北条の理想と、潔癖症という鎧

 

 令和の世にしてかっとび一斗に魂持っていかれた人です。

 今日は推しの一人である大阪・四方寺中の白鷺こと北条権之介くんという素晴らしいキャラについて語りたいと思います。

 

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ま、眩しい……!なんという眩しさだ……!!

 

 テーマは北条の潔癖症と現実と理想です。

 四方寺中記事かもしれません。

 だいたい以下の感じ。

  • 北条は潔癖症であるが、その対象はおそらく菌や泥ではなく人
  • 北条のもつ理想と、その理想と相容れない現実
  • 試合の最後に北条はどちらをとったか
  • 北条が人に対して潔癖である理由を推察してみる

 

 以下順を追って見ていきます。

 

 

1. 北条の潔癖について

 

さてこの四方寺中の天使こと北条ですが、潔癖症であるという公式設定があります。

主将である溝口の口から明言されているのでそこは間違いないと思います。

 

 

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「あれは潔癖症なもんでむずかしいんですわ」(28巻72ページ)

 

 いきなり清雅との練習試合が決まった上、他のチームメイトが持参していたジャージも持っていなかった北条はパジャマで試合に臨む羽目になる。それを気遣ってマコトがうちのをお貸ししましょうか?的なことを言って、でもそれを溝口が断るんですよね。それが上のシーン。

 ここまでなら、まあそういうもんかなぁって感じなんですが、この練習試合中に「ん?」となることが起こります。

 それがこちら。

 

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 北条、パジャマが汚れるのは案外平気なのではないか?という。

 というよりたぶん最初からそうなんですよね。

 ジャージの貸し出しを断った時点で、北条の中では「パジャマが汚れること」よりも「他人のジャージを着ること」の方が無理レベルが高い。

ここから、北条の潔癖の対象は、おそらく菌ではなく人ということが言えます。

 

 

2. 北条と理想主義

 

 この四方寺中のフェアリーエンジェルこと北条ですが、前述の潔癖症しかり、初登場回からだいぶ強めのインパクトを残したキャラなのではないかと思います。そしてそれ以外にもなかなか強火の設定が存在します。

 

・大阪生まれ大阪育ち+コテコテの関西チーム

・…で標準語を使う

・枕が変わると眠れない

・麗しめな見た目に対して下の名前が「権之介」

・自称「フィールドの貴公子」

・「白鷺の舞」という謎技を披露してくれる(プレースタイルが独特)

・バイオレンスサッカーギャグマンガで「暴力反対!」という名台詞を吐く

 

 濃い。

 たぶん一斗史上もっとも他チームから「なんだアイツ…」されたキャラだと思います。(実際カズマが発している台詞)

 ただこの設定群をひとつひとつ見ていくと、そこにはわりと共通性があるのではないか?と思っています。

 北条ってわりと、理想とするものに対して、それとは相容れない現実がセットになってるんですよね。言い換えると、結局生まれ持ったものに抗えていない。

 

・ドラマに憧れて標準語を使う→でも気を抜いたときに出るのは大阪弁

・枕のことは指摘されてキレる→異質であるという自覚はある(が直せない)

・身なりや振る舞いや自称は変えられても、自分では変えられない名前を憂う

 

 以上のように、北条は彼独自の理想をもちながら、同時にそれとは相いれない現実や性質が描写されているキャラなのだと捉えられます。

 しかし、その北条が不条理な現実に対し理想を貫き通した場面があります。

 それが全国大会における試合のラストです。

 

 先に結論を言いますと「四方寺中戦のラストは、北条が現実的な正答を叩き折って自分の理想をとって負けたラストなのではないか」と考えています。

 

 

3. 溝口という現実、北条という理想

 

 わかりきったことですが四方寺中の主将である溝口と、北条のプレースタイルは対極にありますよね。

 そしておそらく、プレーする目的自体も違う。

 溝口が求めているのは言わずもがな勝利ですが、北条の求めているものは華麗さです。

 溝口はご存知驚異のバイオレンス主将であり、勝つためなら少々際どいことでも平気でやってのけます。(でもそれは自分勝手の表れではないと思っていて ※後述)

一方の北条ですが、「なんて華麗なアシストなんでしょう」「見よ!華麗な白鷺の舞を!」「(溝口が退場になった試合を指して)勝っても最悪な気分だし…二度とごめんだな あんな試合」等々、勝利や力よりも、彼なりの美や規律を重んじていることがわかる台詞が散見されます。

 

 そうした二人の価値観がぶつかったシーンがこちらです。

 

 

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 清雅に対して度を超えたラフプレーを行い、イエローカードまでとられた溝口に、北条が(正気に戻すために)水をぶっかけて抗議したシーン。

 そして何だかんだと言い合ったのち、溝口は抗議してきた北条に対して「おのれは勝ちとうないんか?」と反論します。そしてその言葉に北条は黙り込むんですね。反論しない。

 ダメなもんはダメでしょうが!!くらい言ってキレ返してもいい気がするんですが北条はそうは言わない。つまり、少なくともその時点の北条は、規律より勝利を重んじる溝口の言葉を正論として捉えている。そして大切なのは、北条自身には勝つことよりも重要としているものがあるという事実。

 そんな理想を重んじる北条が唯一、勝利に対しての欲求を露わにしたのが四方寺戦のラストです。

 

 

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「このままでは負ける 負ける 負ける」「いやだ勝ちたい」

 

 失神したGKの代わりに北条が自分の手でボールを叩き落とそうとするシーンです。これって本来なら溝口がやるようなことですよね。でも溝口もいない、GKもいない、勝つためには反則を犯して自分がやるしかない。そうなった北条は上のセリフを叫びながらボールを叩き落そうとする。つまり、理想主義であるはずの北条が、溝口に諭された後に現実主義に揺らいでいる。

 

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 でも、結果として北条は手を降ろして負ける。

 これを良心の呵責の結果、とすることは決して間違いではないとは思う(というより確実にそれもあると思う)のですが、先述の通り、北条自身は勝利に執着して規律を軽んじる溝口のことは完全には否定していない訳で。

 

 

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 さらに言えば負けた直後、「ごめん………手を使えなかった………」と謝る北条に対してタマが開口一番に言ったセリフは「なに溝口みたいなことゆうとんのや 北条はんらしくおまへんで」なんですね。

 タマが言及していることは負けたことでもなく、反則を犯そうとしたことでもなく、「北条らしくない」という一点。

 よって四方寺中戦のラストは、北条が現実主義溝口の正答よりも、自身の理想をとり負けた、と捉えることも可能なのではないでしょうか。

 

 

4. 北条の潔癖が持つ意味

 

 長くなりましたが、ここで潔癖症の話に戻ります。ここから先は特に推察の域になりますが。

 1で述べた通り、北条の潔癖は人を対象としたものです。ではどうして北条は他者に対して潔癖なのでしょう。

 

 それは、潔癖症が北条の内側にある脆い理想を守るための鎧という機能を果たしているからではないでしょうか。

 

 最初に述べた通り北条が非常に個性的で自由なキャラクターであることは確かです。しかし彼自身のもつ理想が、現実という要素と合わせて考えると、実はかなり脆いものであることも、確かなことだと考えられます。試合の最後になってやっと自分の理想を貫き通し、その結果を肯定できたんですから。北条がふと口走った「神様はなんていじわるなんだろう」という台詞はわりかし北条の核心に近いのではとすら思います。

 

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 溝口が北条を諭しているこのシーンって、現実主義の溝口が正論を盾に理想主義の北条を抑え込む、というかなり象徴的なシーンだと思うのですげえ好きです。他チーム自チームから北条への反応を見るに、おそらくこんなことが北条の人生において何回も起きている。

 そうした悪意の有無を問わず行われる他者の干渉から、理想を守るために生じたのが潔癖症なのではないか?というのが一個人の解釈です。

 

 

 

 ちなみに北条と相対する価値観をもつ人物として語ってきた溝口ですが、私は溝口のことも大好きです。溝口の現実主義は自分勝手でも自己中心的なものでもないと思うからです。

 

 

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 上のように、溝口の根底にあるのは「お前ら(チームメイト)を勝たせてやる」「日本一にしてやる」という強い思いです。「日本一にしたる」「わし」と、溝口一人が勝とうとしているのではなく、あくまでチームに勝たせたい。

 一方北条の理想が誰のためにあるかと言われたら、それは北条自身のためです。それでも、他の四方寺の面々は溝口や北条が自分らしくいられることを最重要視している(「反則で勝っても溝口しか喜ばねえ」的なことは言いつつ溝口の否定はしていない)。

 四方寺中は和を重視しつつも個を尊重する、それを描き切ってくれた四方寺のラストは素敵だなあと思っています。

 そしてそんな感動的なラストの後、北条は……

 

 

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 チームメイトのためという思いをもった溝口はすぐには立ち直れず、自分の理想に生きた北条は驚きの回復力を見せる。

 深いですねぇ(やけくそ)

 

 とりあえず私は利他主義のバイオレンス主将こと溝口が早々に立ち直ってくれることと、四方寺の恵まれた異分子こと北条が北条らしくいられることを祈るばかりです。

 最後までお読みいただきありがとうございました。